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2019/02/22

昔の名前で出ていますシリーズ第一弾。
なんでこんなこと書いたんだろ?かつてSNSで数日間挙げてたプロフィール欄の記事。ほぼ創作。
なーんとなく叔母が義理の孫娘に冷たく、血の繋がった孫だけ猫可愛がりしたことをモチーフにした感じ。さっきアメブロに挙げようとして止めた。
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私の家族は田舎の大家族で、正月ともなれば伯父伯母、あまり年の違わない叔父叔母、いとこ、いとこの子、など様々に集まってきて、それはそれは賑やかで、食事時にはテーブルの上に、ビール、日本酒、焼酎、ワイン、子どもたちのためのソフトドリンク類が、様々なグラス、おちょこと共に並べられます。
ある年のお正月のこと、ひとりの女の子がすごい勢いでカルピスを飲み干すと、空のグラスを掲げて
「今度はそこのキラキラしたのをいっぱいちょうだい」
とせがみます。女の子は、別にカルピスでもいいのでしょうが、スパークリングワインの美しさをみて、それを口に入れたときの感触がどんなものか、きっと不思議に思っただけのことでしょう。
ところがそれを見た大伯母が
「このしつけの悪い子は何⁉ 
ひらひらしたスカート姿なら何をねだっていいとでも思ってるのかしら?そもそも、本当は男の子なんじゃないの?とんでもない子ね、あんたなんかここに来るんじゃないよ」
と追い出してしまいます。一方、女の子は自分の身に起こったことすらよくわからないままです。周囲の大人たちは、中には大伯母のやり方はひどいと言う叔母や、正義感の強い若い叔父もいましたが、私を含めて多くはしつけが悪いのは確かだ、といって泣き続ける女の子の言い分を聞くことなく二階に追いやってしまいました。ただ、そこにいた全員がこういう後味の悪いお開きは今回限りにしたいものだと思ったはずです。

その次の年、今度は甥っ子がテーブルの上の空のおちょこを見つけてきて、日本酒が飲みたいと言い出します。 私はきっと大伯母が激怒すると思っていたら、
「こっちへおいで、おばあちゃんがみんなにお酒をもらう秘密を教えるよ。ほら、ズボンなんかやめて、ひらひらしたスカートはいてダンスを踊れば、みんな喜んでお酒をくれるよ」
素直な子どもは、別に日本酒が飲みたいわけではないのに、周囲の大人が面白がるのを頼みに、スカートをはき、ダンスを踊ります。子どもとはこんなものかもしれません。
大伯母の辻褄のあわない行動に声を上げる叔父や叔母たちの声が次第に大きくなる中、私も大伯母にむかっ腹が立ち、だんだん強くなる反感を抑えられなくなっていました。そしてさらなる悪態をつこうとした、まさにその瞬間、後頭部を思いっきりどつかれたのでした。見ると父が
「勘違いすんな!お前をいつもかばう兄の顔に泥を塗る気か‼」
と激怒しています。兄も、ここは控えろと静かな目で私を制しようとしています。私は、この大家族の集まりそのものを破壊しようとした自分の浅慮を恥じ、自分なりに謹慎の意を表するつもりでその会を早々に辞したのでした。

そして、その次の年。今度は中学生くらいの子がやってきて、
「もう中学生だし、ビールを少しぐらいならもらってもいいですか?」
と言い出します。 大伯母は興味をなくして仏壇を拝んでいるのですが、叔父や叔母は、このような子どもをどう扱えばよいかという経験値をもう十分に積んでおり、また、この中学生が思いのほか優秀だったこともあって、談笑が滞ることなく賑やかな宴席が続きました。
毎年のように繰り返される出来事を見ていて気がついたのは、我が家にある「治癒力」の強さでした。あとからあとからやってくる無鉄砲な子どもたちによってその関係性がたびたび傷付けられようと、傷口は知らぬ間に薄い瘡蓋を重ね、また何事もなかったかのように元の姿に戻る。しかも、単にもとの姿に戻るだけではなく、様々な経験値がより強靭さと柔軟さを生み、この先何度でも発生するであろう新たな傷口も、きっとゆっくりゆっくり包含していくのだろう、などと意味なく思ったものです。そして、この強さは、私の嫌いな大伯母も含めた先人たちが残してくれた恩恵なのだと気づくと、仏壇の向こう側に近づくにつれ仏壇の前で延々とブツブツ繰り返す人の気持ちが少しわかった気がしました。
さて、謹慎中の私は、この大家族のために何かできることがあるのでしょうか?しばらくは静かに考え、この大家族の様々な人たちの様子を観察するしかなさそうです。
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