Top Stories Diary Index Next Before

2018/12/11

送らなかったメッセージ。こっちを送るべきだったかな……

 かつて、愛について語り合った恋人は間違いなく別れる、という話を聞き、ボクはそれをずっと信じてきた気がする。それは愛というものが実はなんら実態のないもので、その当事者がそれを探ろうとすればするほど、ふたりは互いが空虚な錯覚の中にいたことに気づくからだと思っている。

でも、そんなの寂し過ぎるよ。

だからボクはアンドロギュノスの逸話を持ち出し、あらゆる男女は、自分に寸分違わず一致するbetter halfを探し続けるものだと理解しようとした。誰かを愛して満たされないのは、その相手が本来の相手ではないからで、どこかに必ず引き裂かれた本来の相手がいる、そう思い込もうとした。

そして、ボクはキミに出会った。

キミはボクの前に現れた最後の希望、真の意味でのbetter halfだった。姿形は知らないが、ボクのカラダと心の凹凸を、完璧に埋める凸凹を持って生まれた人に違いないと思った。

なぜそう思ったか。

今にして思えばそれは幸せな錯覚で、本当には一致するはずのないものまで一致していると思わせる、魔力に囚われていただけなのだろう。いやそれは、キミが不断の努力でボクが疑わずに済むよう、イヤなことも何もかもを我慢し、飲み込み、受け入れてくれたから、ボクはとその錯覚の中にいられたに過ぎないのかもしれない。

でも、ボクにはこの幸せな錯覚がいつまでも続くように思われた。なぜなら、ボクは何ひとつ努力することなく、自然のままでキミに受け入れられたと思い込んでいられたからだ。

ボクは、キミが常に自分と同じ状態になることに一番の価値を置いてきた気がする。どんな話題でも、エッチなことでも、余計な説明も説得もなく、自然に同じ感覚になること、そのことに驚きと他に代え難い価値を感じてきた。
ボクがキミを抱きしめたい時、その強さと、その抱きしめ方が、言葉を超えて理解され許容され同じレベルで共有されていると思えること、それは至福であり、それを実現してくれるキミは、間違いなく特別な存在だった。

きっと、キミもそんな価値をボクに見出し、現実世界と並行してボクが存在することに価値や意味を見出しているのだろうと思っていた。キミがボクのアンドロギュノスであるだけでなく、ボクもキミにとってのアンドロギュノスに違いないと思う方が自然だった。

でも……

そうではないようだ、と気付かされる。
ボクがキミに見出した価値や意味を、キミはボクには感じていない。必要ともしていない。キミは、それとは違う何かをボクに見出していたのだと気づく。

では、キミは一体ボクの何を好きだと言っているのだろう? ボクはキミの言葉の端々にその意味を見つけようとするのだが、いくら考えても、キミがボクを必要とする意味に行き当たらない。ボクは何かを与えている実感がないし、そんなボクに存在価値があるとも思えない。

だから、キミの些細な言葉に疑心が芽生え、不安になる。
そして、その不安を見せたくないから感情を圧し殺し、冷徹な態度になって自分を守ろうとする。

キミにとってもこれまでの努力や我慢は、それと意識する必要のない自然なことだったのかも知れない。そうだと思いたい。でも、やはりキミはどこかで無理をしてきたんだと思う。懸命にボクに合わせようとしたが、もうできなくなっている、それが今の実態なんじゃないだろうか。

※※

ここまで書いて放り出した。もっともっとダイレクトな言葉がいい気がしたから。
でも…… それは間違いだったんだろう。いたずらにキミを傷つけただけのようだ。

バカな男だね、ボクは。。

玄関の東側にある柊の葉は、刺さると結構痛い。
この庭木を手入れするとき、必ずボクは彼女を思い出している。トゲトゲの葉が指先に触れるたび、痛みを思う。
その木の向かい側にはマーブル調のものもあるが少し元気がない。