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2018/12/23

川沿いに大きな孤木がある。傍を通ると「サクリファイス」という映画を思い出す。一本の孤木が燃え盛るラストシーンが印象的で、映像の美しい映画だったが難解な作品だった。
名画座で4時間を超えるこの大作を、彼女と一緒に観た。彼女は買い物か何かをしたがっていたが、ボクが映画にしようと言えば彼女は無条件に従った。
名作だが恋人同士が肩を並べて観る映画ではない。重苦しい場面が延々と続く。
ふと、隣の彼女を見ると、スヤスヤ寝息を立てていた。
帰り際、ボクは彼女に「面白かった?」と訊いてみた。

ううん、全然
そんな答えを予想していた。もう二度とゴメンだから、そう言うと思っていた。だが、
面白かったよ。また来ようね。
彼女はそう答えて、ボクの左腕に凭れかかった。
「来週もタルコフスキーやるんだけど、また観に来る?」ボクは重ねて訊ねた。
ううん、それはもういい
さすがに今度はそう言うだろう、ボクはそう思った。だが、

うん来たい。

彼女は嬉しそうな顔でボクを見上げた。
ボクなんかに合わせる必要などないのに…… ボクはそう思うと不安になった。

それから間もなく彼女と別れた。

彼女に何も与えていないボクが、彼女に与えられ続けることが不安だったのだ。

川沿いの孤木を見ると、そんなことを思い出す。
だからボクはその木を、「サクリファイスの木」と呼んでいる。未だに同じようなことを繰り返すボクには、この木はいつまで経っても「サクリファイスの木」であり続ける。
野球少年が美しいお辞儀で挨拶をした。つられて横にいたコーチもお辞儀した。笑っちゃったよ。
母校のユニフォームはデザインがすっかり変わっていた。スパイクがアスファルトの砂を喰む時のザクって音も変わってた。
やっぱりスパイクの爪は金属に限るんだけどなあ(笑)