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我が家の楊貴妃桜のこと。
植えたのは曾祖母だった。昔、庭に桜が三本あったよね?と話を向けると、母親は、あぁ、曾祖母の植えた楊貴妃ね、と応えたのだ。
祖父じゃなかったんだ、と言うと、あれは曾祖母が実家から移植したものだとあっさり否定。その当時、まだ幼かった母親だが、その木を植える曾祖母とその兄、祖母三人の後ろ姿を覚えているらしい。
確かに、言われてみれば無骨な祖父にあの可憐な花びらは似合わない。次々に産まれた娘たちが美しく成長するようにと祖父がわざわざ楊貴妃を選んだのだろうという思い込みは儚くも潰え去った。
記憶の中の曾祖母も、その兄という大伯父も、ボクが生まれた時にはもうすっかりおじいちゃんおばあちゃんだったし、その娘である祖母ですらボクには十二分におばあちゃんでしかなかったから、当時の会話を想像するのは難しいが、あの桜に一体何を託したのだろう?
伐り取られてからもう数十年経っているのに、未だボクの記憶の中に住み着いている桜の由縁が益々知りたくなった。